正義の戦士、空回りの街へゆく
かつて、「正義毒の鎧」を身にまとった一人の戦士がいた。
彼は己の剣に絶対の自信を持っていた。
なぜなら、剣はすべてを切り裂く。悪も理不尽も、たいていの場合、話し合うより早い。
彼の信条はただ一つ。
**「言葉より、切っ先」**である。
そんな戦士が、とある中世の街にやってきた。
そこは勇者を名乗る者や魔法使い、怪しい僧侶、自称錬金術師たちが集まる、なんとも“胡散臭い冒険者の街”だった。
とりわけ彼が嫌ったのは、“自称勇者”だった。
その勇者、剣を抜いたことがないくせにやたらと口が回る。
「悪魔と戦うためには、仲間が必要なんだ」
「まずはこの説明会に来て!参加は無料!」
「剣なんて必要ない。思いがあれば、それが武器になる」
…おいおい、詐欺の香りがするぞ。
ある日、戦士はとうとうキレた。
「お前、戦わずして勇者を名乗るなァ!!」
バタン。扉を蹴破り、勇者の“仲間集め説明会”の会場に乱入。
剣を振るい、会場の張りぼての装飾をバサバサ斬り裂いていく。
勇者が熱く語っていた「共鳴」「成長」「人生の扉」などのパネルもズタズタ。
ただし、人は傷つけなかった。そこだけは、筋の通った戦士である。
メンバー候補たちはおびえた。
「ひぃっ…あの人、悪魔?」
「いや違う。あの人は、私が剣を抜かないことに怒ってるんだ…」
そこに現れたのが、スポンサーの貴族、陰で支える大商人、街の長老などなど。
戦士にこう言った。
「あなたの正義は立派だが、剣だけではリーダーにはなれません。
話し合いもせずに切り込んでくる者に、仲間を任せられますか?」
…正論である。
戦士、沈黙。
正義の剣より、正論の一撃のほうが効くこともある。
それを見た自称勇者は、少しだけ器を見せた。
「よし、今度は正々堂々と武器を使って模擬戦をしよう」
「いや、話し合いでもいいよ。やっぱり僕たち、仲間だから」
…ぐぬぬぬ。
器の大きさの差を、戦士ははじめて思い知った。
その夜、戦士は剣を研ぎながら、こっそり呟いた。
「…俺の役目は、この器を守ることなのかもしれん」
かくして正義毒にまみれた戦士は、勇者のそばで**“場の空気を守るお目付け役”**として
街の平和に貢献することになった。
今では、勇者の説明会の入り口で「勧誘の無理強いはしないでください」と注意喚起している。
剣を抜くより先に、肩の力を抜いてみたら…仲間ができた。
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